2015年04月02日

Unfair Trade

気づけば4月です。
3月は瞬く間に過ぎ去りました。
日本酒の製造もやっと終盤の終盤。火入れが済めばやっと緊張感から解かれます。
さてビールだビールだ。1ヶ月後にはイベントラッシュが待っている。

良書を読んだのでメモ。

フェアトレードのおかしな真実――僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た -
フェアトレードのおかしな真実――僕は本当に良いビジネスを探す旅に出た -

貧困問題の書籍もここ数年よく読んでいるので、
こういう認証ビジネスの裏側を題材にした本に書かれている内容もちょっとは理解しやすい。
「チョコレートの真実」を読んだとき、衝撃だった。
その時の記事もあります。
http://koji0824.seesaa.net/article/135387686.html

当時は自分がコーヒーに携わる仕事をしてて、
コーヒーの抽出やサービス、ビジネスについて学ぶより、
それを作る第三世界の貧困問題について知るほうが自分には有益だった気がする。


この本は「フェアトレード認証」についてだけ書かれているわけじゃなくて、
欧米の大手企業がサプライチェーンを通じて世界中の貧困を加速させていく様々な事象について書かれてる。
それは単に公正な取引や価格を保証するかしないかという簡単な話ではなくて、
身体的精神的に劣悪な労働環境を強制したり、
倫理に反してでもその労働でしか生きる術がない状況について、
現地に入り込んで取材して書かれてる。

そしてそれらは先進国の人が少し考えれば想像できるようなことなんだけど、
「フェアトレード認証」のロゴがその想像を邪魔する。


以下、いくつかの事例について引用。

ニカラグアのロブスター漁。
質素なボンベだけの装備でほぼ素潜りに近い漁法でロブスターを穫るニカラグアの若者たち。
アメリカの大手企業が買い占めるロブスターを穫って収入を得るために、
1日に何十回も潜水する。
これにより塞栓症を引き起こし、減圧症、潜水症(ベント)を引き起こす。
20歳そこらの若者が、この症状で手足が不自由になり最悪死亡する。
組織的に身体障害者を量産する仕組みがこうして出来上がっていて、
サプライチェーンの上流の大手企業はそれを認知している。
現地では、潜水であろうが仕掛け漁であろうが加工場に持ち込まれた時点で一緒くたになり判別はできなくなる。
にも関わらず、「私達はそうした潜水によって穫られた人道的ではないロブスターを仕入れていない」と発表している。
海洋環境保全に何万ドルも投資してCSR=社会的責任を誇らしげに掲げる企業も、ニカラグアの若者が危険な潜水漁をしないように教育し装備を整えることに投資はしない。
それでも「倫理的」は売れる。


イギリス、マクドナルドのコーヒーのカップにレインフォレスト・アライアンスのロゴが入っている。
マクドナルドのコーヒーを買うと、倫理的なコーヒーを飲むような人だと周りに思わせられる。
ちなみにレインフォレスト・アライアンスは最低価格の保証がなくフェアトレード認証より、より市場主義型のシステムと言える。このロゴを導入してコーヒーの売上は25%増加した。
消費者はもっと倫理的になりたい、貧しい農家をもっと支援したいと思っているが、劣っている、または知名度の低い商品に乗り換えなければいけないのなら嫌だと思っている。
大手企業からすれば、今まで作ってきたものを作り続けつつ、安心できる倫理的認証のロゴを商品につけられればよい。
消費者は何が正しいことなのかを調べる時間も意志もなく、大企業が自分の代わりに責任を持ってそれをやってくれるだろうと考える。企業は倫理的な商品が売れるとわかっていて、倫理的なロゴの背後には「ブランド」を構築しようと待ち構えている組織がいる。

フェアトレード認証で保証される最低価格は、現在の国際市場の価格よりはるかに低く、農家が保証による恩恵を受けることはない。
保証にかかる割増金の費用は、その他の倫理的な広告のマーケティングコストに比べれば遥かに低い。
また、取引を長期間保証すると口約束はしていても、実際に価格が下落して最低価格を下回った場合、その契約が履行されるかどうかはわからない。そのコストが、認証ロゴを付けることで得られる利益を上回るようであれば、フェアトレード認証のロゴをパッケージから外せばいいだけだ。
また、フェアトレード財団に支払う手数料は、半分は認証プロセスの運営・監督にかかる管理に使われる。
もう半分が農家の手元に届くのかといえばそうではなく、フェアトレードブランドを宣伝するために使われる。

フェアトレード認証を実際に現地で運営するには、小規模の農家を一軒一軒相手にはできず、農家の協同組合を通じて行われる。
協同組合を通じて行われた取引では、協同組合の管理費や人件費で多い時には売値の30〜40%もの金額が協同組合の長老の懐に入る。


中国。Foxconn。アップル、ノキア、デル、HP、ソニー、マイクロソフト、任天堂を始め多くの有名ブランドの製造を行う工場で、2010年春、1ヶ月のうちに16人の若者が飛び降り自殺した。
アップルやマイクロソフトよりも多くの年間収益を上げるフォックスコンはアップルが利益率27%なのに対して4%しかない。生産量を上げることで生み出される利益は安い労働力によって支えられる。
週7日間、一日12時間、1万回、4秒に1回、製品組み立ての同じ単純作業を全くの無言で繰り返す。地方から出稼ぎに来る若者が希望を失って自殺する。
自殺騒動のあと、マスコミの糾弾によって給与の引き上げを余儀なくされたフォックスコンは、法定最低賃金の低い河南省への移転を予定している。
国策によって地方の教育水準は上がっており、若者の能力や野心は高まっているが、それに応える仕事がない。大学で教育を受けることがそれほど賢い投資ではないと若者が気付き始めた。働き始めるのが遅くなればその分金を稼ぐのが遅くなるだけだという思いに至る。中国の地方ではいまや、教育はマイナスの利用価値しかもたなくなっている。


ラオス。中国の隣国。中国企業のゴム園開発。アヘン栽培からの作物変換によって税控除されたゴム園が熱帯雨林を全て破壊しつくして、一面のゴムの木の単一栽培に取って代わられた。
ラオスの人々にとってゴムは唯一の仕事になってしまったが、さらに需要が拡大している以上、中国人労働者の流入は避けられず、今後その仕事があるかはわからない。ラオス国民の文化にも悪影響を及ぼす。
中国は、発展において倫理的な配慮をするのはまだ早いと言う。倫理は、欧米諸国だけに許された贅沢なのだと。欧米諸国は自分たちの帝国の特権を享受したのだから、なぜ中国も同じようにしてはいけないのだ、という言い分。
倫理的な消費者がお気に入りの製品の出自をたどることの難しさ。


アフリカ、コンゴ。スズ石鉱山。
いつ崩れるかもわからないような狭い坑道で、小さな懐中電灯とハンマーだけで採掘する。常に死の危険に晒されている。
サプライチェーンの末端、原料の調達という点でラオスと同じだが、ラオスは政治的には安定しており平和だ。
コンゴは完全に機能が崩壊しており、坑道を出たところで安全な場所などどこにもない。まだ戦争中である。
ルワンダ虐殺のあと、2003年アフリカの世界大戦が終結する頃には推定500万人の命が失われた。
この戦争で最も残虐な側面の一つが、武装勢力の多くに資金源が全くなかったことだ。
飢えた兵士たちは、食料を持つものから奪い、自分が坑道を下りなくても誰かが採掘した鉱石を奪えばいい。

スズは携帯電話やノートPC、無数の電子機器の回路基板を溶接する際に使われる。
私たちはスズ石を必要としているが、人権がここまで徹底的にひどい状態にある国と取引してもいいだろうか?
国連が推奨する倫理的禁輸措置は、ただブラックマーケットを生んだだけ。結局、コンゴの人たちはスズ石を売ることでしか生きていけない。非合法でも、中国企業が原産国の表示を改ざんして買っていく。


アフガニスタン。世界中のヘロインの90%を生産している。ピンク色のケシの花。
アフガニスタン政府はアヘンの掃滅運動を続けている。
農家も代替作物を導入しようとするが、換金作物は市場まで持っていかなければ売れない。
その途中でタリバンやアフガン警察や強盗に捕まるかもしれない。道路では検問があり、賄賂を要求され、うまく売れたとしても儲けは残らない。
ケシなら業者が買いに来る。
アヘンは鎮痛剤モルヒネの原料であり、合法栽培すれば世界的な市場もある。しかし、モルヒネの最大需要国であるアメリカの「80−20ルール」特別市場保護保証により、アヘンケシの全輸入量の80%をインドとトルコから購入することになっている。


ここまでは、世界のサプライチェーンに巻き込まれた倫理的に機能不全を起こしているケースについてだった。

しかし、同じような社会環境でもうまく行っているケースもある。

タンザニア、キリマンジャロの小さな村オレラ。高品質コーヒー。
コーヒー豆は長らく市場価格が下落していたが、このところ過去最高に上昇している。小さなコーヒー農家は通常、地域の協同組合を通じて安い単価でコーヒー豆を買い取られる。
イギリスの小さな会社が、通常単価の2〜4倍の価格で高品質のコーヒーを買い取ってくれる。それの製品のパッケージにはフェアトレード認証のロゴは入らない。
それでも長期的に高品質のコーヒーを調達するため、高い価格を提示し、現地で技術指導してコミュニケーションを取り、良好な関係を築く。
同様に、マラウィの高品質茶葉。

地域密着の小規模同士の取引で成功する2例。
さらに、これを大規模展開して成功するケースもある。

西アフリカ、コートジボワール。綿産業。
内戦や政治的混乱、社会・環境問題はこれまで見てきたような劣悪な国々と同じ環境でも、倫理的意識と社会的責任感のある、持続可能で採算の取れる綿産業。
世界最大の紡績・取引会社オラムが、 内戦で倒産した綿繰り工場を政府が競売にかけた際、工場を購入した。



この本のいいところは、認証ビジネスや先進国大手企業のサプライチェーンの悪しき部分をやり玉に上げて終わるわけじゃなく、倫理的経済的な成功例、理想のビジネスモデルを模索するところまで提案しているところだと思う。
最後にたどり着くコートジボワールのオラムという会社も、もちろん営利目的で参入しているが、現地に入り込み、農家とコミュニケーションを取って、教育し、識字率を上げ、正しい資本主義的な競争を適度に促すようにして生産性を高めている。それを短期的な利益のためではなく、長期的に高品質な原料を得られるように、投資し、農家に融資して自立をサポートする。
正しいことをしている、それを宣伝するために認証ロゴが必要なわけじゃない。自社のやり方や製品に自信があるからこそ、ロゴに頼るようなマーケティングが必要ない。

「チョコレートの真実」では、同じコートジボワールでも、カカオ農園の児童労働の問題が取り上げられてた。
非人道的な強制労働、奴隷扱いされるコートジボワールの子供たちの命が、先進国の子供たちが食べるチョコレートには含まれる。って話。
同じコートジボワールでも、オラム社の事業とは真反対。
これは、政府や社会情勢の良し悪しによってだけでなく、
企業が真剣に現地と向き合って取り組めば倫理的に正しいことは実現できるってことだ。

先進国の大手企業は、サプライチェーンという外部委託によって、委託先や、その先の委託先が倫理的であるかどうか知りつつも、是正する責任や負担を逃れようとしている。
更に言うと、それは消費者にも言えることだと思う。
著者あとがきで触れてるけど、第三世界にはまだまだインターネットによる情報の透明性がない。一方、先進国の情報の透明性はSNSなどでより過敏になっている。
消費者が企業の不正やダブルスタンダードをひとたび糾弾すれば瞬く間に拡散する。
企業は逆に、倫理的に正しい取り組みをSNSを通じて宣伝すればいい。

この本が書かれたのが2011年。そこから4年たって世界はさらに複雑になってる。
中国の労働力も賃金は上昇して東南アジアにシフトする。そこからアフリカに移るまでまだ少しある。
「最底辺の10億人」でも書かれてたけど、最貧国への援助は金を渡せばいいってもんじゃない。
一方的なNGOの支援も時間がたてば役に立たなくなる。

日本で生きてると関係のないような話に聞こえるから不思議。
今このブログを書いてるChromebookも世界に絡まるのサプライチェーンを通じて製造されたに違いないのに。


久々に長くなったなぁ。
この本に出てくる多くの倫理的に機能不全を起こしている国々は、コーヒーの産地だ。
日本でよく飲まれるスペシャルティコーヒーは高品質で倫理的な商品である可能性は高いけど、コーヒー生産全体の1%やそこらの製品。残りの99%のコーヒーはどうやって作られて、作ってる人たちはどんな環境を強いられるんだろう。

結局のところ、本を読んだりすることでしか得られない知識や情報。
知らなきゃ知らないでいい平和な日本で生きていられることに感謝しつつも、
いつかそういう世界もこの目で見てみたいなと思うのです。
posted by koji at 08:09| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | リーディング | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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