2013年06月19日

やさしい醸造学 抜粋そのB ビールA

ビールの香味成分はほとんど醗酵中のアミノ酸代謝に関連して形成され、酵母の増殖期に起こる。しかし、そのほとんどすべての成分のビール中の存在濃度がその弁別閾値より小さい。
代表的な高級アルコール類と呼ばれるプロパノール、イソブタノール、イソならびに活性アミルアルコールなどは、主としてアミノ酸の脱アミノ反応によって生成される。
特にバリンはロイシンやイソロイシンのあとに取り込まれるアミノ酸で、ビール中に残存する割合が高いアミノ酸である。
ビールの香味評価を低下させるダイアセチルはビール中の含有量がその弁別閾値に近く、その素材となるアセト乳酸はバリンの代謝と関連している。アセト乳酸濃度は、醗酵中のアミノ酸消費が旺盛でバリンが消費し尽くされてしまうほどであっても、逆に低調でバリンが多く残るほどであっても、顕著に高くなってしまう。アセト乳酸濃度は熟成の所要期間を決める重要な指標であるので、残存アミノ酸濃度、バリン濃度が一定になるように醗酵を管理することがいかに重要であるかよくわかる。

果実臭などのエステル類のビール中の濃度は弁別閾値と近い。酢酸イソブチル、酢酸イソアミル、カプリル酸エチル、カプリン酸エチルのような構成分子は炭素数がわずかに違うだけで同じ構造であり、匂いの質が似ているため、匂いの強さはそれぞれの総和に比例してくる。
酢酸エステルは、TCAサイクルが回らなくなり、アセチルCoAが蓄積することにより生成が始まる。一次醗酵の後半期、酵母の増殖が定常期に入りかけた頃からその生成が始まり、醗酵が長く続けば続くだけ多く生成される。
麦汁中の溶存酸素や不飽和脂肪酸の濃度が高い条件では酵母の増殖が長期に続くのでエステル類の生成は少ない。また、麦汁中の不飽和脂肪酸の濃度はその混濁度と相関が高いので、透明度の高い麦汁はエステル生成により適していると言える。
酵母が弱った状態で醗酵を続けると多く生成されることが観察されており、吟醸酒づくりの条件と似ている。

一次醗酵後期では、麦汁中には酵母の利用できる酸素は存在しないので、酵母は麦汁中の酸素に代わるあらゆる化合物を利用し始める。
酵母にとって酸素の役割は、エネルギーを体内でつくる過程から生じる酸素を体外に排出するための水素との結合相手であり、水素と結合できるものであれば何でも酸素の代わりとなる。
そこで、アルデヒド類やケト酸類は再び取りこまれて水素と結合=還元していく。
硫化水素やアセトアルデヒドなどの沸点の低い生産物は、炭酸ガスによる洗浄効果により揮散して濃度を低下させる。
ダイアセチルの前駆体であるアセト乳酸は、この時期には自然的な分解反応のみが進行しており、その結果生ずるダイアセチル、アセトインも水素と結合してアルコール類となる。これが見かけ上、アセト乳酸が酵母によって消費されていくように観察される。
この熟成の時期での諸反応は変化されるものの濃度がごく低いため、高濃度の酵母は必要なく、次回の醗酵のために活性のうちに回収する必要がある。また、酵母の死滅はビール品質を損なう原因となるため速やかに若ビールから分離する。

反面、アルコールの生成は酵母の増殖とは無関係に醗酵全期間を通して行われるので、香味成分の管理には不十分であり、酵母の増殖状態=アミノ酸代謝によって管理する必要がある。

一次醗酵後期に温度を高める、冷却開始時期を遅らせると、これらの熟成反応を促進することができ、シリンドロコニカルタンクの普及以来用いられている。
アセト乳酸濃度が一定値以下でビールは急冷される。
シリンドロコニカルタンクは、冷却ユニットが直接タンクに巻きつけてあるので、若ビールの温度の変更をより自由にできるためこのような熟成促進法ができる。
ビールの熟成中の反応のうち、アセト乳酸の分解は最も進行の遅い反応であるため、この分解を速めてやれば熟成期間全体を短くすることができる。

シリンドロコニカルタンクは、建設コストが安く、作業環境がよく、冷却効率もよい、敷地面積も少なくてすみ、自動洗浄が可能なシステム。
深さ10〜15mにもなるこのタンクの形状が酵母に与える影響は、何よりその深さによる圧力の影響がある。
アルコール醗酵力よりも、酵母の増殖力により大きな影響を与える。したがって、アルコール醗酵は順調に進行していても、酵母の増殖は抑えられているため、香味成分の生成度合には顕著な影響が出る。
むしろこの差を商品特製として、アルコールは高くとも香味成分の少ないあっさりしたビールを作りだす。

若ビール中は、酵母が水素が与えられるものはすべて与えられているため非常に還元的=酸素欠乏状態である。
ポリフェノール類やメラノイジンも還元されて赤みが消え、ピルスナー特有の黄金色はこの段階でできあがる。
二次醗酵中には、酵母の死滅が始まりアミノ酸や核酸が溶け出してくる。これらはうまみのある成分なのである程度の溶け出し=自己消化は香味の熟成にプラスであるが、過度になると清涼感を損ない酵母臭となる。
pH値も上昇しタンパクやタンニンが再び溶け、これらは香味を低下させる。

ビールの苦味成分はイソフムロンがその代表的なものであるが、ホップ中には似た性質を持つ数々の類縁化合物が存在する。ビールの苦味は、すぐに口の中で消える。ホップの苦味成分は単独でビール中に存在するのではなく、タンパク質などの高分子と結合して存在しているため、苦味を感じる舌の味蕾のタンパク質と強く結合することがない。このためキレの良い苦味が成り立つ。

ダイアセチル臭は、乳酸菌が工程中で汚染した時に出現する。漬物臭やチーズ臭的な匂い。
カビ臭は原材料、王冠栓、コルクなどから来る。
未熟臭は、ダイアセチル臭の他、アセトアルデヒドのグリーンなにおい、すっきりしない蒸れた臭いの硫化水素臭などがある。
ポリフェノールを脱炭酸する能力のある異種酵母が汚染してスモーク臭がつく。
これらは新鮮なビールでも検出される。

古いビールでは、酸化臭、日光臭など。
長期の保存で酸化が進むと、カードボード臭、その後醤油のような臭いが強くなる。
ビールに光が当たると、タヌキやキツネなどの臭いがする。イソフムロンが光によって分解したあと、ビール中の硫黄化合物と反応して3−メチル−2−ブテン−1−チオールを生成する。

ビールの泡は、ジョッキの中でビールの蓋の役割を果たし酸化による変質を防ぐ。
泡の部分は、高分子のタンパク質とビールの苦味質であるイソフムロンの濃度がビール中の値より高い。これら両者が結合して泡を安定化させる表面活性物質を形成する。
ビールの粘度は泡持ち性と非常にきれいに連動する。ビールの粘度は麦芽由来のグルカン含有量によるが、グルカン含有量が高いと麦汁やビールは濾過しにくくなる。
濁った麦汁は脂質の含有量が多く、泡持ちが悪い。醗酵の際にできる泡が多いと泡タンパクが減少するので製品ビールの泡持ちが悪くなる。

上面醗酵では醗酵温度が高く、泡を酵母回収のために取り除くため、泡持ちは非常に悪くなる。
小麦麦芽はタンパク質の分解が少ないので、色は淡く、高分子タンパク質が多いため泡立ちが良い。

窒素ガスは炭酸ガスに比べてはるかに水溶性が低いので、窒素ガスの泡は非常に安定している。
窒素ウィジェットは、内部に窒素を封入したプラスチック製のボールのようなもので、缶を開けると圧力差によって内部から細かい窒素の泡が吹き出す。
posted by koji at 11:51| 大阪 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | ビール | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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